第151回「 産学官交流 」講演会(常葉大学)報告
今年度2回目の産学官交流講演会は常葉大学にご協力をいただき、経営学部 経営学科 講師 澁谷和樹氏による『発見される観光地とマネジメント ~訪日外国人旅行者とインターネットコミュニティの事例から~』の講演と同造形学部 造形学科 教授 安武伸朗氏による『UX(体験デザイン)によるサービス開発の可能性と課題 ~産官学共同研究の事例から考える~』の講演があった。
『 発見される観光地とマネジメント ~訪日外国人旅行者とインターネットコミュニティの事例から~ 』
常葉大学 経営学部 経営学科 講師 澁谷 和樹 氏
澁谷講師は昨年3月まで立教大学観光学部で助教として勤務。昨年4月から常葉大学経営学部で講師としてスマートツーリズムの研究をしている。2024年の訪日外国人数(インバウンド)はコロナ前の2019年を上回る数で推移している。オーバーツーリズムの定義として「市民生活の質及び(あるいは)訪問客の体験の質に過度に負の影響を与えてしまう観光のありよう」で、京都・鎌倉などの「時間的・空間的混雑の発生」、富士山夢の大橋、富士山ローソンの「観光客のマナー問題」、スペイン・バルセロナの「家賃の上昇に伴う住民の退去」などがある。スマートフォン、SNSによる従来観光地とは考えてこなかった場所が観光スポット(撮影スポット)となっている。また、訪日外国人の質の変化(個人旅行の増加/約8割、リピーターの増加/約7割)が挙げられる。不十分な受け入れ態勢の中、新たに発見される観光地の出現によりオーバーツーリズムが発生する環境になっている。オーバーツーリズムの対策として、外国人の行動・ニーズをつかむ、物理的・空間的、心理的受容力を高めることが必用と思われる。観光地のライフサイクルとして現在許容限界量となっており、今後再生するか、停滞するか、衰退するかのどの道を通るのかが注目される。
『 UX(体験デザイン)によるサービス開発の可能性と課題 ~産官学共同研究の事例から考える~ 』
常葉大学 造形学部 造形学科 教授 安武 伸朗 氏
デザインは「社会や人々のために創る世界標準の“広いデザイン”と自分のために創る(アート)、日本固有の“狭いデザイン”がある。大学では自然科学(建築)、社会科学(デザイン)、人文科学(アート)を学ぶ。デザインは時代の変化に応じて「目的」と「機能」が進化、プロダクトデザインからPC技術を前提としたデザインに移行している。ビジネスで求められるデザインは「ブランド構築の資するデザイン」、「イノベーションに資するデザイン」であり、求められるスキルは「UX(User Experience)デザイン」、「ユーザーリサーチ」である。産業界が求める人材スキルは「コミュニケーション、課題解決、IT知識」である。UXデザインの仕組みとしては人間中心設計で、ビジネスをサービスとしてデザインし直すサービスデザインである。サービスデザインの対象は顧客の体験だけでなく、サービスを提供する側の仕組みも全てである。サービスデザインでは「インサイト(洞察)」が最も重要。また、ユーザーと製品との関りには多様な文脈が存在し理解すること。ユーザーがその関わる過程でどのように考え、どんな感情を抱きながらゴールに向かうかをカスタマージャニーマップを利用する手法がある。そのほか、サービスブループリント、メンタルモデルダイヤグラム、ステークホルダーマップ、ビジネスモデルの手法の紹介があった。UXデザインを利用した産官学共同プロジェクトの事例としてパーソナルキャリア、静岡銀行、静岡市保健福祉長寿局、駿府匠宿の紹介があった。大学側の人材育成の観点、産業界側の人材活用の観点から今後の産学連携の可能性があると思われる。