第154回「 産学官交流 」講演会(静岡県立大学)報告
今回は静岡県工業技術研究所と静岡県立大学の協力で、静岡県工業技術研究所 所長 櫻川 智史 氏による『工業技術研究所にお任せあれ! ~産学官連携成功の秘訣~』と静岡県立大学 食品栄養科学部 食品生命科学科 准教授 伊藤 圭祐 氏による『おいしさの分子設計技術』、食品栄養科学部 環境生命科学科 准教授 原 清敬氏による『食資源循環型のオプトバイオものづくり』の講演があった。
静岡県工業技術研究所 所長 櫻川 智史 氏
『 工業技術研究所にお任せあれ! ~産学官連携成功の秘訣~ 』
静岡県工業技術研究所の紹介(組織、業務内容、取り組んだ研究内容)があった。静岡県内には静岡本所の他浜松、富士、沼津に工業技術支援センターがあり、それぞれ特徴のある支援をしている。浜松は自動車関連、富士は製紙及びセルロースナノファイバー、沼津はバイオ技術が中心。支援活動としては人材育成、情報提供、産学官連携、地域貢献事業を実施している。「トラブルの原因を探りたい」、「技術上の問題についてのアドバイス」、「試験や分析依頼」、「設備、機械、研修室の貸与」、「新商品、新事業立ち上げの研究」、「大学、企業との連携研究」が主な事業であり、まずは相談してほしい。研究事例としては木材関連が中心で、染色木材による自動車のインパネ、遮音壁、茶カテキンによるHCHO(ホルムアルデヒド)の低減シート、和室用ダイニングセットの開発がある。尚、木材・木製品と人に関する科学的検証も実施している。又、ユニバーサルデザインの浴室用リモコン、車いす用ポジショニングクッションの開発もある。地域課題である廃棄物・エネルギー問題に注目し、飲料出荷額が全国1位である静岡県のコーヒーかすのゼロミッション、柑橘類のダイダイのゼロミッションにも取り組む。森林資源(木材)を工業材料として付加価値向上のための開発支援も実施しており多くの商品を開発している。産学官連携の秘訣として①どんなところからテーマを見つけ出すか?②産と学の間に入り苦労したところは何か?③工技研の役割は何か④研究のやりがいとは何かを明確にする。
静岡県立大学 食品栄養科学部 食品生命科学科 准教授 伊藤 圭祐 氏
『 おいしさの分子設計技術 』
伊藤准教授は食品栄養科学部食品生命科学科の准教授であるとともに、昨年12月に研究分野のベンチャー企業、合同会社DigSenseを設立し、経営している。研究分野は味と香りの評価技術の開発。静岡県立大学では役430種類のヒト味覚・臭覚受容体の応答評価を実施し、DigSenseではAIによる風味の言語化と解析を行いおいしさを追及している。おいしさは5感(視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚)からなり、情報・環境・経験がプラスされる。舌の味蕾にある味覚受容体によって甘味、うま味、苦味、酸味、塩味を感じ、臭覚と味によって風味を感じる。おいしさの評価法として官能評価、機器分析、受容体解析があるがそれぞれ短所、長所がある。ただ、味覚・臭覚受容体の応答値としておいしさのデジタル化が可能である。カルシウムイメージングによる緑茶成分の苦み評価、辛み評価、カップラーメンの辛み評価、薔薇の香りもデジタル化が可能。代替肉の評価として美味しくない、畜肉らしくないがカギとなっており、肉のおいしさは味と香りで判断される。牛肉香をデジタル化して代替肉の肉らしさを評価できるAIを開発、今後に期待される。伊藤研究室では応答評価できる多くのデータを所有しており今後の利用に期待される。おいしさに大切な感覚である味と香りは化学分子として捉えることができ、「味と香りの分子設計」が可能となった。又、合同会社DigSenseにおける「AI技術が革新するフレーバーホイール活用法」に関する説明があった。フレーバーホイールとは「風味の言語表現を複数階層のサークル状にまとめたもの」で風味を見える化する。フレーバーホイールを作成するのに時間、人的、金銭的コストが大きく課題となっていたがAIを活用したフレーバーホイールを開発することでその課題解決につながる。フレーバーホイールを作成することにより食品・メニュー開発、営業、製造やマーケティングに利活用できる。なお、おいしいものを作ることも将来的にできるだろう。
静岡県立大学 食品栄養科学部 環境生命科学科 准教授 原 清敬 氏
『 食資源循環型のオプトバイオものづくり 』
原准教授は食品栄養科学部環境生命科学科の准教授の傍ら2020年に静岡県立大学認定ベンチャー企業株式会社396(ミクロ)バイオの取締役CTOを兼任している。微生物発酵(バイオものづくり)に必要なエネルギー源と資源の持続的な供給を目指し光とバイオマスの利用研究をしている。これまでは食資源を微生物による発酵で、食関連物質を生成し食産業に関連する機能性食品、調味料、補助資料に利用してきた。静岡県立大学赴任後は廃棄される柑橘果皮やコーヒーかすを用いてペプチドやカロテノイド等のファインケミカルの生産研究を行っている。又、マリンバイオリファイナリーの研究では三重大学と共同で水産食品原料を食品にしたのちの加工残渣を海洋微生物に与え培養して水産系補助資料を生産するサーキュラーマリンバイオエコノミーの研究へ展開している。光駆動ATP(アデノシン三リン酸)再生(オプトバイオモノづくり)は光照射によってプロトン(プロトン駆動力)が増加しエネルギーが増加、その結果物質生産(代謝)が向上するというもの。現在ベンチャー企業である396バイオはNEDOのバイオものづくりプロジェクト(カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発)に参画中であり、光駆動ATP再生系の探索と利用の役割を担っている。