第155回「移動産学官交流 」講演会
(静岡農業高等学校)報告
今回は移動産学官交流講演会として、静岡県立静岡農業高等学校を会場に静岡県立富岳館高等学校オオサクラソウ研究班の「南アルプスの贈物 ~オオサクラソウ種子保存プロジェクト~」、株式会社ヒバリヤ 関連事業統括 林弘二氏の「農業と福祉事業の連携」、静岡大学 農学部 応用生命科学科 准教授 長尾遼氏の「駿河湾排水資源化計画 ~藻類微生物複合系によるバイオ排水処理システムの開発~」の発表、講演があった。
挨拶 静岡県立静岡農業高等学校 校長 望月 康弘 氏
今年度も産学官交流講演会が当校にて開催されること感謝いたします。高校生の取り組みがクローズアップされているのは何かというと、地域の人材は高校生である。防災において地域の高校生の役割が一番大きかった。静岡市、静岡県の人口流失が多い。地元を支えるのは高校生である。普通高校という呼び名が気にくわない。普通って何?専門高校は普通ではないのか?昔から専門高校は低いとみなされてきた。しかし今では専門性が高まり社会での地位が上がってきている。専門高校はもっと地域の中心的な存在になると思っている。地域協議会で地元の在り方が話し合われており、5年後には10%の高校生が減ってしまう。10年後には2割、15年後には3割減ることは、2/3になってしまう。人材難が加速度的に増えることが解る。そうなると余計に専門高校が重要になってくる。中学を卒業して通信高校に行くのが増えており1,000人を超えている。通信教育だとコミュニケーション能力が養われない。働こうとしない子どもたちが増えてしまう。今回の発表者のように、このような活動を通じて段取り、コミュニケーション能力を学んでいく。その点が大事である。この発表の場が子どもたちの成長の場につながる。終わった後声をかけていただくことで成長するので是非お願いしたい。専門高校を支援いただくとともにPRしていただきたい。
静岡県立富岳館高等学校 オオサクラソウ研究班
『 南アルプスの贈り物 ~オオサクラソウ種子保存プロジェクト~ 』
静岡県には絶滅の恐れがある野生生物は618種類(2020年)あると言われている。オオサクラソウは日本固有変種で北海道、本州に分布し南アルプスが分布の南限。静岡県の絶滅危惧「Ⅱ類」となっている。これまでの研究成果で発芽率99%、育成個体89%、現地調査で土は多湿、日照は木漏れ日程度、土壌は礫と有機物を多く含む砂壌土、高温に弱いことがわかった。本年度の研究は①類代栽培による花芽分化調査、②組織培養を利用した個体数の増加、③培養されたカルスの不定芽分化とした。①類代栽培による花芽分化調査では低温で花芽分化するだろうと結論付けたが共試個体が少ないため調査が出来なかった。②組織培養を利用した個体数の増加では、前年度は植物ホルモンであるNAA(ナフタレン酢酸)を1ppmとした3区に植物ホルモンであるKi(カイネチン)をそれぞれ10ppm、5ppm、1ppmとしたが、今年度はNAA(ナフタレン酢酸)を0.1ppmとした3区に植物ホルモンであるKi(カイネチン)をそれぞれA区:1ppm、B区:5ppm、C区:10ppmとした結果C区の結果が良かった。③培養されたカルス(植物が傷ついたときにできる細胞の塊や、土壌改良材としての微生物の塊)の不定芽分化では不定芽形成しなかった。リニア中央新幹線のルート上にオオサクラソウの自生地があり、トンネル掘削工事による水位低下が懸念される。オオサクラソウの広報活動として「朝市」でのPR活動を実施している。オオサクラソウの知名度が低いため、広報活動を続け、種の保存をして栽培している個体を増やして南アルプスに戻すことができればと考えている。
株式会社ヒバリヤ 関連事業統括 林 弘二 氏
『 農業と福祉事業の連携 』
ヒバリヤグループ(キシヤマホールディングス)はヒバリヤ6店舗、サニーマーケット2店舗、日晴農場2農場、レストラン4店舗あり、NPO法人スカイラークス(就労継続支援A型事業所)で形成されている。ヒバリヤは清水区三保折戸地区で開業したこともあり、折戸地区の農業の経営数、生産量が減少したため、休耕地を利用して農業法人を設立。日晴農場は折戸地区とあさはた地区にある。トマト、きくらげを栽培、その後イチゴ、なめこを栽培。障碍者支援のNPOでは就労支援型A型事業所を運営、ヒバリヤから野菜の袋詰め作業を委託され、又、日晴農場にてきくらげの生産・収穫作業を行っている。現在26名が利用している。NPO法人の事業は障碍者さんが働いた作業で賃金を支払うことになっており、そのため管理スタッフの賃金は国からの助成金で賄っている。国からの助成金は利用者が働いた時間、人員数、基礎点によって算出される。農福連携は農業と福祉事業の両方に携わっているものとしてそれぞれの弱みを十分に補完できる。又、何を生産するのか?どのような仕事をしてもらうのか?生産から販路まで安定的な確保が必用。今後は、A型事業所の活動と農家さんからの情報をいただき事業相談としてマッチングできるよう検討していきたい。
静岡大学 農学部 応用生命科学科 准教授 長尾 遼 氏
『 駿河湾排水資源化計画 ~藻類微生物複合系によるバイオ排水処理システムの開発~ 』
長尾准教授は静岡県牧之原市出身の40歳。相良高校から東京理科大学卒業後、東京大学にて博士を取得。日本大学、名古屋大学、岡山大学を経て、現在は静岡大学農学部にて研究を行っている。高校時代はサーフィンに熱中し、学業は不振。特に数学と英語が苦手だったが、高校2年の夏に受験勉強を開始し、1年間の猛勉強の末に大学に合格した。現在は光合成の研究者として、特に藻類の光捕集機構に興味を持ち、研究を行っている。これまでに189本の英語論文を発表し、世界的に高い評価を得ている。現在は、研究テーマを二酸化炭素吸収と環境浄化、バイオマス利活用に移し、応用研究に取り組んでいる。特に、藻類バイオテクノロジーに着目し、気候変動問題解決への貢献を目指している。藻類バイオテクノロジーは、気候変動や人口爆発による食糧不足、エネルギー不足、資源枯渇といった問題解決への期待が高まっており、大学や研究機関では30年前から研究が行われているが、社会実装された例は少ない。一方、企業は特定の藻類に着目し、増殖に焦点を当てた研究を進めており、一部で社会実装に成功している。長尾准教授は大学と企業のギャップに着目し、藻類と他の微生物を組み合わせた複合培養系による排水処理技術の開発に取り組むんでいる。今後環境問題解決への貢献、資源循環型社会の実現を目指し、新規産業創出へと期待している。